〈 空ノイロ、風ノオト 〉

 

2009.01.09[金] 月詠 1

欠けていく月を詠み、
満ちて来る時を待つ。

そんな規則正しい法則が、
人の心にも有効ならば、

こんな無駄な時間など、
ゆるゆると過ごしたりせぬものを・・・。


幾ら月を詠んだところで、
思い通りにならぬのが人の常。



それでも、
満ちると信じて、
月を詠む―――。











あの日、雪夜の外出していく姿を窓からそっと見送った。
門を出て行くまで振り向くな・・・と、願いながら。

振り向いた雪夜の顔を見てしまったら、追いかけてしまいそうで・・・。



雪夜の姿が消えてしばらく手持ち無沙汰な時間をウロウロとやり過ごし、
追いつかないだろう時間を見計らってから、試作品のコートを抱え家を出た。

駅で待っている雪夜に会いたくないばっかりに、
大通りでタクシーを捕まえて事務所へ行くと、珍しく全員が揃っている。

それもそのはず、締切が今日だったことをすっかり失念していた。


「すみませんっ!! 遅くなりました」

「まだ大丈夫だよ。 締め切りは延びたんだ・・・」

「えっ? なぜです?」

「いや〜〜、何を隠そう俺の手違いで商品化する予定だったデザイン画をなくしちゃってさぁ・・・ハハハ
また初めから描き直しだよ・・・」

ポリポリと頭を掻きながら暢気に笑っているのが社長兼チーフ本人なのだから、なんとも緊張感のない会社だ・・・。


「まぁ俺のなんてどうでもいいよ! どぉ?月斗は完成したの?」

「あっ、はいっ!! どうしても自分で作って見たくて、
とりあえず雑ですが仮縫いまで済ませてみました」


「見せてよ」と言われ、大きなペーパーバッグの中身をチーフに差し出す。

背後にあったトルソーを引き寄せ、チーフが直々に着せてグルリと一周して腕を組む。


「う〜〜〜ん」

顎を擦るようにして唸るチーフの声にドキドキと鼓動が早くなった。

(何を言われるのだろうか?)

ショーでの客の反応のを見る時に並ぶ緊張の一瞬。


(精一杯やったんだ。 自分の出来としては満足しているから・・・)


そう思ってはいるけれど、ここで良い評価を貰えれば、自分の作品が市場に出回るチャンスなのだ。
それを考えると、やっぱり一度は自分の作品を着て歩く人を見てみたいと思うのが本音。



「月斗? コンセプトは?」

「甘すぎず、硬すぎず・・・ ユニセックスを目指したつもりです」

「なるほど・・・。 だからこの形にファー使いなのか・・・」

「はい」

「この色を選んだ理由は?」

「雪がテーマでしたから、すぐに白が浮かんだんですが、
それではあまりにもセオリーどおりなので、少しだけ捻ってみたつもりです。
それに、この手の型にこの色味は珍しいかと・・・」


「染め・・・ 入ってるよね?」

「はい」

「そうだね。コンセプトもしっかりしてるし、今の時代背景にも合ってる。
それに色味も良いと思うよ。 全体的に見たらGOを出しても可笑しくない仕上がりだと思う」

「ありがとうございますっ!!」

「でもね・・・ 1つ・・・ コスト的な問題なんだよね・・・。
染め入れるとコストが上がるのはもちろん承知してるよね?」

「えぇ、分かっています。 ですが、この色味が作品のこだわりでもあるんです」

「だよね・・・」


しばらく考えてから、チーフがトルソーからコートを脱がせた。


「分かった。 一応、これ縫製掛けて! そしてコスト計算してみてくれるかな?」

月斗以外のスタッフにそれぞれの仕事を振ったチーフが、最後に月斗の顔を見てニッコリと笑った。

「お疲れさん! 正直言って月斗がここまで完成度の高いものを持ってくるとは思ってなかったよ。
期待してて良いよ! あとは銭計算だから俺の仕事ね♪」

ポンポンと肩を叩かれた。

「結論出すまで、もうちょっと待ててよ」




チーフの反応がうそのようで、多分自分はこの時、ポカンと口を開けたままチーフの顔を凝視していたはずだ。

しばらくしてからジワジワと嬉しさがこみ上げて来て「ヤタァ〜!!」と叫びそうになるのを握り締めた拳で誤魔化していた。

その後、みんなが仕事をしているにも関わらず、自分が何をしてるのか定かでないまま、ふわふわと地に足の付かない状態で一日が終わってしまった。

帰り際にチーフが「1・2日のうちに結論を出すから」と言ってくれて、やっと夢じゃないんだと思えた。




嬉しくて、嬉しくて、誰かに話したくて仕方ない。
そう思ったとき、やっぱり浮かんでくるのは雪夜しかいなくて。

この時には雪夜が風祭に会いに行ったことなど忘れていた・・・。



事務所を出て、早く家に帰りたくて駅までの道をサクサクと歩いた。
信号待ちで足を止めた時、たまたま目に入った『空車』の文字に引かれ思わずタクシーを止めていた。


玄関に飛び込み、荷物も置かずに雪夜の部屋をノックしても返事がない。

「あれ? 雪夜さん?」

声を掛けて細めにドアをあけても中には電気も付いていなかった。
一旦部屋へ行き荷物を置くと、もう一度雪夜の所へ戻る途中で、バスルームに灯りが付いていることに気付いた。


「なんだ・・・ 風呂か・・・」



自分自身を落ち着けようとキッチンでコーヒーを淹れて雪夜の出てくるのを待っていたけれど、
一杯のコーヒーを飲み干しても雪夜が出てきた気配はない。


「まさか・・・ 倒れてなんていませんよね?」


口に出してみて急に心配になって覗きに行った。
とりあえず無事では居たけれど、雪夜の声の感じが違う気して、ハタと気付いた。


(そうだ・・・雪夜さん・・・ 風祭さんと会ってきたんだ・・・)



思い出してしまった途端に、今までの浮かれていた気分が一気に削がれていく。

興味の対象が一瞬にして風祭と雪夜の関係に移った。




話があると言われ、内容などすぐに解ったが、自分から言い出したくなくて知らないフリを決め込む。


聞きたいけれど、聞くのが恐い。

聞くのはイヤだけれど、知らないのもイヤだ。


風祭の思いを知った雪夜は一体どうするのだろう?

何もなかったことにするのか?

それとも、

風祭を・・・ 追いかけるのだろうか?




(もしかしたら・・・ もう・・・)



最後の答えは・・・ それ以上考えたくなかった・・・。






さっきまで、嬉しくて浮かれていた自分が、

まったくの別人に思えた・・・。





自分にとって一番の関心事は・・・


「やっぱり・・・ あなたなんですか・・・?」







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どうもありがとうございました。
Comment
2009.01.09 Fri 01:17  伽羅 #ZJk3q2Y2
あぁ!! なるほどぉ!! 
その可能性は大ですね!! ←(いきなり傘の話/爆)



あんまり感情を表さない月斗が喜んでる場面って滅多にないかも・・・(笑)

本当はそんなに暗いやつじゃないんですけどね・・・。
外に居ると・・・←(外限定)


それに、雪夜に対してのタイミングは計ったようにバッチリなクセに、
自分自身の時には悪いよね?(笑)

そこでも雪夜と月斗の関係が見えてるみたいだ。



いつも素敵なアイディアをありがとうございます!
おばさんの固い頭では思いつかないよ・・・うふふ
柚子季さま  [URL] [Edit]
2009.01.09 Fri 00:51  柚子季杏 #-
まさしく月が昇って沈むような月斗の一日・・・。
お疲れ様(涙

こんな風に月斗が感情を露にするのって、珍しいですよね。
本当であれば、一番に、雪に喜んでもらいたかったな。
タイミングの悪さときたらもぅ、泣けますね(シクシク
でもそこで、やっぱり雪を最優先なのが月斗だなぁ〜。
柚子季が褒めちゃる!やったね、月斗!!

傘…ん〜〜兄やんなら価値に気付きそうですがねwww
柄のどこかにOTOYA.Kとかイニシャル彫ってあったらいいのに〜!
オーダーならあり得ますよね?ふふ
昇って沈んで・・・  [URL] [Edit]







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